いぞう
僕が「いぞう」と過ごしたのは１９の時だったんだ
もう１０年近くたってしまったんだねえ
「いぞう」は目やにだらけで、汚い黒い毛で、不吉な感じがただよっていたんだ
僕は２匹いた猫のうち、汚らしい「いぞう」のほうを選んでもらってきた
ぼくは「いぞう」を大家に内緒で飼っていた
毎朝５時くらいだったかなあ
胸の上にのってきて「ごろごろ〜ごろごろ〜」いいはじめる
こっちは眠いっちゅうの
でも、首のあたりをなでてやるとかなり喜ぶんだよねえ
だからうつらうつらしながらよくなでてやってた
でも大きくなるにしたがって胸が苦しくなってくる
時々僕は朝５時に”かな縛り”になって苦しんだ
そんないぞうなんだけど
こっちの目が覚めているときはすごく攻撃的なんだよ
オスだからかなあ
もうぼくの手は引っ掻き傷だらけ 血だらけ
すわってたら「にゃ〜」とかいいながら
緑色の眼を光らせ、後方から飛びかかってくる
「痛いっつうの〜」と叫びながらほうり投げる
それでもまたかかってくる
なんであんなに攻撃してきたんだろう
なにかいいたいことあったんかなあ
縄張り争いか？
大家のばあさんに飛びかかったこともあった。
大家が来て、玄関のチャイムを鳴らしてたの。
で、大家にばれないように、一階の窓から外に出したの
で猫なんかいませんよ〜と知らんぷりして玄関のほうにいったら
外から玄関の方にまわりこんだいぞうが
大家に「にゃー」とかいって飛びかかってた
ガーと大家をよじ登って胸のあたりを蹴飛ばして下に着地して
僕の部屋に入ってきた
大家は「こりゃあどこの猫じゃあ」ってどなってたけど
ぼくは「さあどこの猫でしょうねえ」とすっとぼけた
この時は痛快だった
のみが湧いたこともあった
河原にいぞうを散歩に連れていったとき、
どうもいぞうのからだを黒いものが移動してるなあ
と思ってたんだけど、僕はその時「のみ」なるものを知らなかった
ましてや猫の「のみ」が人間の血まで吸うなんて
もう家中のみだらけよ
毎晩のみ会やったわ（のみをつぶす会）
でっかい台風が来たときはかわいかったで
電柱が何本も倒れるような台風が来たことがあって
家が一晩中停電になったんよ
時々、すごい風がふくと畳が１５センチくらい浮き上がって
まじかよと思うくらいすごい台風やった
その時、いぞうは僕の胸にずっとふるえながらしがみついてた
そんないぞうはぼくが一週間くらい家を留守にしてる間に
いなくなった
大家がどこかに連れていったのかもしれんし
人なつっこくなってたから誰かが飼ってくれてるのかもしれん
いぞうとは別の名前で。。。。
今頃どうしてるやろ
あいつとはもう一度会いたいなあ
